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今朝、この夏、はじめて蝉の声を聞いた。

天気は、断続的に雨が降っているけれど、その合間を縫うように蝉が激しく啼いている。

梅雨の半ばに生を受けた蝉は、ほんとうの夏を知ることなく消えていく。

きょうは、ちょっと、そんなセンチメンタルな気分。

きょう掲載させていただく詩は、第11回サトウ・ハチロー記念全国コンクールで最優秀賞をいただいた作品である。岩手県北上市の主催で授賞式の翌日は、遠野物語の遠野まで足を伸ばした記憶がある。当時の賞金は30万円だったが、現在は3万までに減額されている。それがさみしい。どこの自治体も財政が苦しいのだろうなあ。

 

      蝉の啼く木

 

母の介護用品を

近くのスーパーで買った

その帰り道に

不意に聞く 蝉の声

 

そうか

夏なのかと思う

 

母の介護のことで 心はいつも

いっぱいだったから

気づかずにいた

 

蝉が啼く おおきな桜の木を

見上げて

蝉を探してみる

 

どこにいるのだろう

 

あんなにも たくさん

あんなにも 激しく

啼いているというのに

 

木をぐるりと一周してみるが

一匹も

見当たらない

 

横断歩道の信号が

青になった

 

ぼくは 蝉の声を

背中で聞きながら

家路を急ぐ

 

母が

ぼくの帰りを

首を長くして

待っている

 

                第3詩集「蝉の啼く木」収録。