f:id:tigerace1943:20190323103802j:plain

朝夕、まだ、ちょっと冷え込むけれど、もはや、冬ではない。

立春も過ぎたから、季節は、きっと、春なのだろう。

ぼくが、詩を書き始めた頃、恋愛をモチーフにしたものばかり書いていたし、そういうものしか書けなかった。それはそれで、いいのだが、恋愛詩がぼくの代名詞的に呼ばれるようになって、心の中は常に葛藤していた。ぼくの生涯の友人で詩の大先輩に、悩みを打ち明けると「恋愛がモチーフでもいいけど、甘いんだよな、きみのは」と厳しいアドバイスをもらった。そのひと言で、ぼくの作風は変わったといっても過言ではない。

その頃、本屋さんには、まだ詩の本がたくさん並んでいた。

ぼくは、そのなかの詩人会議という詩誌を手に取った。ぼくとは違うかなりリベラル系の詩の結社の出している詩誌で、新人賞を公募していた。

かなり、本格的な詩を書かなければ入賞は無理だと思ったが、詩の大先輩のひと言が正直、くやしかったので、一泡吹かせてやりたかった。

その想いが、ぼくに「春の光」という詩を書かせ、新人賞の佳作を獲らせてくれた。

そのとき、本賞を獲得された新潟の詩人には授賞式で親切にしていただき、また、感性が合い、今以て、親交は続いているし、また「春の光」は、根強いぼくの人気作となっている。

大先輩とは、電話連絡を取り合っているが、あのとき、あんなことを言わなければ、あなたのようなモンスターを生み出すことはなかったなあと苦笑いをされている。

 

     春の光

 

君のお母さんに案内されて

二階の この部屋に

足を踏み入れると

そこはかとないその静けさに

君のさびしさがぼくにも感染する

 

ついこの間まで バイトで

君の家庭教師みたいなことを

やっていたけれど

サイン、コサインがどうのとか

ベルリンの壁がどうなったとか

そんなことよりも もっと

ぼくは君に伝えたいことがあったんだ

ほんとうは

 

君のお母さんが

空気を入れ替えますからと

窓を開けると

キラキラと こぼれるように

春の光は 部屋いっぱいにちらばって

衣紋掛けの制服は

やわらかな風に揺れ

机の上のポートレートの君は

かなしいほどの笑顔で

時を止めている

 

 

                                                    第一詩集「新選組になればよかった」収録