去る11月10日、ひとりの名優は、ひっそりとあの世へ旅立った。
高倉健さん、83歳である。
ぼくは「網走番外地」などの任侠路線の東映時代の健さんを知らない。
東映を退社し、フリーに転じた頃からの作品は、遺作となった「あなたへ」まですべて観ている。
「君よ憤怒の河を渉れ」「新幹線大爆破」は、すこし、質が違うがフリー転身後の健さんは、一貫して朴訥で不器用な男を演じ続けてきた。
さしずめ、ターニングポイントとなったのは山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」だろう。
ぼくが特に好きな映画は「駅~STATION~」だ。八代亜紀の「舟唄」が効果的に使われていた。
「野生の証明」も忘れられない。森村誠一の原作の主人公・味沢も健さんを彷彿させる。
「冬の華」のあしながおじさんも、健さんそのものだった。
役柄は、もちろん、その作品ごとに異なるわけなのだが、そのすべてが「健さん」なのである。「野生の証明」の自衛隊員も「ブラックレイン」の大阪府警の刑事も、健さんが、役柄を喰ってしまっているのである。
高倉健>役柄。
式にすると、こうなる。
しかし、健さんはかっこよかった。
ひとりが、絵になった。
健さんの、うつむく仕草が大好きだった。
首を傾げるだけでも、こころはシビレタ。
追悼特番で、知らなかったエピソードを知ることができた。
受刑者を前に「どうか大切な人の元へ帰って下さい」と講演をしていた健さんには、特にこころを打たれた。
日本の至宝であった。
謹んで、ご冥福をお祈りいたします。