「ボクシングは奇妙なスポーツだ。同じことを街なかでやってみろ。たちまち逮捕される」。 映画「チャンピオン」より
刑法第35条・「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」。とある。
つまり、法律上、たとえば刑法の罪を構成する要件であっても、その行為が業務上正当な行為であるなら罰せられることはない」ということである。
冒頭のボクシングはリングの上で、選手同士が相手を殴るスポーツとしての正当行為なので、選手が暴行罪や傷害罪、または致死罪に問われることはない。
救急車などの速度オーバーや信号無視は道路交通法違反に問われないし、医師の薬剤を投与したり外科手術も薬事法違反や傷害罪に問われないし、死刑を執行した刑務官も殺人罪に問われることはない。
これまで、何も疑問を感じなかった行為が、刑法第35条という法律に根拠規定があったのだ。
近頃、このようなニュースがあった。
「日本ハムは7日、札幌ドームでの主催試合でファウルボールが右目に当たり失明した市内の30代女性が、北海道日本ハムファイターズと札幌市などに損害賠償を命じた3月26日の札幌地裁の判決を不服とし札幌高裁に控訴した」。
まず、ファウルボールを打った打者には何の責任もないことはわかる。業務上正当行為だからだ。刑法第35条にそう書いてある。
では、どこに訴えるのか。まず、球団と球場を管理する企業や行政になるだろう。それを証拠に第一審はそれを認め、賠償金を命じている。
球団側は、セーフティネットなどを網羅すれば、臨場感が失われるし、入場チケットにもどのようなことが起こっても責任は負わないと明記されてあることを理由に控訴した。
どこもかしこも「自己責任」か。
自己責任とはいえ、野球場と戦場は違う。
責任を負わないとチケットに明記してあったとしても、それで、主催者の責任が免れるとはいいがたい。
札幌高裁の判断を見守りたい。