ここしばらく、まともに太陽を見ていないような気がする。朝、5時頃起床するが、そのときは雲の切れ間から蒼空が見えて、少しは日差しもあるように思うけれど、日照時間が異様に短くも感じる。
梅雨ということを、差し引いてもだ。
それでも蝉が啼く。蝉の声が聞こえる。しかし、今、啼いている蝉は、夏らしいギラギラした夏を迎えることなく、力尽きるんだろうなあ。
こんなところにも
・・・・・無常の風が、吹いている。
蒸 発
その朝 自転車で仕事場の
町工場へと向かう父の背中を
アパートの玄関先で
ぼくは 母に抱かれ
バイバイをしながら
見送っていたといい
それは いつもと変わらない
ごく日常的な光景だったという
でも その朝を最後に
父は ぼくと母の前から
忽然と姿を消したという
家の中には ただ一枚の
父の写真を残すことなく
あれから 三十数年経った今でも
時折 哀しいなつかしさで
夢に出てくる父は
幼い日のぼくを抱きあげて
頬ずりをしてくれるけど
ぼくの父には
いつでも
きまって
顔がない