バレンタインデーのイラスト | 無料イラスト素材集|Lemon
近年のバレンタインデーは、「好きな人にあ・げ・る」という本命チョコは減少し、頑張った自分へのご褒美チョコを買い求めたり、あるいは、ともだち同士で交換したり、家族に贈るという現象が増加傾向にあるという。
コロナ禍の時代は、その流れは、もっと顕著になるだろう。
過去のバレンタインデーは、やはり、もちろん義理チョコもあるが、女の子の大切な恋愛表現のひとつで、セレモニーだった。ぼくは、小中学生の頃なんて、ただの一度もチョコなんてもらったこともない。勉強できない、スポーツできない、もてない少年で、ぼく自身、女の子よりも、ゴジラの尻尾を追いかけることに夢中だった。
だから、友人が何人もの女の子から、チョコをもらっていても、何とも思わなかった。
高校に入ってからは、少し潮目が変わった。アイドルの追っかけもしたが、バイク、ギター、映画、読書というアイテムで満ち溢れていた。しかし、恋愛に関しては、まるで、奥手で、女の子の方から、恋愛感情を告げられても、なぜか、ぼくの方から「ベルリンの壁」のようなバリアーを作ってしまっていて、どの女の子とも、長続きはしなかった。かといって、女の子に全く関心が無い青春時代とも違っていた。
学生時代が終わって、22才で広告代理店に就職した。コピーライターを目指していて
宣伝会議の塾にも夜間に通っていたが、最初は営業の仕事をやらされた。
ある日、偶然に取引先の担当者の女性とエレベーターの中でふたりきりになったことがある。
ぼくが思うに、相当の美形女子で、ぼくも、仄かな好意を持っていて、このままだと、鼻血が出るか、息が止まりそうだった。
彼女は、手に文庫本を持っていたが、ブックカバーで中身はわからなかった。
「失礼ですが、なにをお読みですか?」とぼくは訊いた。
「あっ、これ『遠野物語』という本ですが」と彼女は答えた。
「ああ、民俗学者柳田国男ですね。『おしらさま伝説』が印象に残ってます」
とぼく。
彼女は、少し驚いたような顔をして、目的階で降りていった。
バレンタインデーは、数日後に控えていた。
そして、バレンタインデー当日、その女性から外国メーカーのチョコをもらい、想いを告白されて、ぼくは、戸惑ったが、ぼくも、あなたのことで、胸が溢れそうだと、どこかで聞いたようなセリフを口にしていた。
彼女と過す日々は、楽しかった。彼女となら、ふたりの物語りを紡いでいきたいと思った。彼女はぼくよりもふたつ年上だった。いつぞやのエレベーターの中の出来事が決め手になったと教えてくれた。つまりは、いつもの、ぼくのキャラと「遠野物語」に詳しかったギャップ、その「意外性」が決め手になったと。
なんだか、うれしくもあり、可笑しくもあった。
ぼくは、おそらく終生、短気・短足・単細胞の人生を送るだろうが、ちょっとした趣味や知識が恋愛の対象にもなり得たことが、何者かに感謝したい気持ちだった。
その女性が、今のぼくの奥さんだって?
それは、ヒ・ミ・ツ。