貴族の家庭に生まれ、芸術的環境で育つ。パリに旅行した際に映画に興味を抱き、36年にココ・シャネルの紹介(!)でジャン・ルノワールと会う。彼の監督作品を手伝い、42年に「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で長編監督デビューを果たす。レジスタンス活動のかどで逮捕されるが、連合軍のローマ解放とともに釈放。舞台“恐るべき子供たち”の演出が評判となり、舞台演出家としても名をはせていった。妥協を一切許さない荘厳な作風が特徴で、代表作に「夏の嵐」、「若者のすべて」、「地獄に堕ちた勇者ども」、「ベニスに死す」、「ルードウィヒ/神々の黄昏」、「家族の肖像」などがある。76年にローマで死亡。
「ベニスに死す」(1971年)
1911年、老作曲家(トーマス・マンの原作では作家)のアシェンバッハ(ダーク・ボガード)は静養のためイタリアのベニスに訪れた。宿泊先のホテルで美の化身のような少年・タージオ(ビョルン・アンドレセン)を見かけ、一瞬で心を奪われる。恋に落ちるわけだ。思いを抑えきれないアシェンバッハだったが、その頃ベニスに疫病が蔓延しており、自らも罹患してしまう。砂浜パラソルの下のテーブル席から、ビーチで遊ぶ少年を見守りながら、落命する。美しすぎるラストシーンだ。
ルキノ・ヴィスコンティの作品の神髄は「滅びの美学」である。
(ヴィスコンティ監督に見初められた世界一の美少年)
「ルードヴィヒ~神々の黄昏~」(1972年)
1864年、バイエルン国王となった18歳のルードヴィヒ(ヘルムド・バーガー)は、オーストリアの皇帝の妃・エリザベート(ロミー・シュナイダー)に惹かれ、逢い引きを重ね、決まっていた婚約も破棄してしまう。また、ルードヴィヒは作曲家、リヒャルト・ワグナーのパトロンとなり、散財して破滅的な人生を送ってしまう。
ワンシーン、ワンシーンが濃厚な油絵のように荘厳で重い。
女優ロミー・シュナイダーが、ため息が出るほど、美しい。
オリジナルは上映時間が4時間を超える。映画を観ても「謎」だけが残る。
本編の中でもルードヴィヒは自分自身が「謎」でありたい、というセリフがよく出てくる。
「家族の肖像」(1974年)
ローマ市の豪邸に住む教授(バート・ランカスター)は、「家族の肖像」と呼ばれる絵画のコレクションに囲まれて孤独だが、平穏に暮らしていた。ある時、コネを使ってビアンカが現れ、自分の娘や情婦たちと豪邸の2階に棲みついてしまう。この家族によって、平穏な教授の生活はかき乱されていく。
ヴィスコンティ自身を投影した作品とされている。
いつしか、本当の家族のようになっていくが・・・。
結局のところ、教授は孤独に息を引き取る。
ルキノ・ヴィスコンティは、ぼくが最も愛している映画監督である。
映画こそ「芸術」だと教えてくれる(これは、好みの問題だ)。
映画の制作年から、ぼくがヴィスコンティの映画と出会ったのは、リバイバル上映か、どこかの名画館だろうと思う。
映画は「娯楽」であって充分なのだが、ヴィスコンティの作品を観て「最高の芸術だよ、最上級文学だよ」って、ぼくの命のど真ん中に、突き刺さり、留まり続けた。今なおである。
3作しか紹介できなかったが、「地獄に堕ちた勇者ども」も大好きな作品。「ベニスに死す」「ルードヴィヒ~神々の黄昏~」と合わせてドイツ三部作と呼ばれている。
何とも舌っ足らずの解説や感想で申し訳なく思うが、ヴィスコンティの映画の前では、どんなに褒めちぎった言葉も、陳腐に見える。
ご自身の肌で感じていただきたい。
機会があれば、鑑賞していただきたい。
まあ、恋人同士で観る映画にしては、重すぎるけどね。相方の好みにもよるけどね。