その日、ぼくは、詩を書いていた。
それが、ぼくの日常である。依頼された原稿があって、〆切りは近かった。
ぼくは、詩の選もするが、同時に詩を書くプレイヤーである。
すこし、題材に悩んでいた。
むかし、父から話を聞いたことがある。兵役を逃れるために、醤油を腹一杯飲むのだと。
80年前の日本が時代背景である。
もちろん、父はそのようなことをしなかったし、兵役にも就いている。
しかし、詩のアイデアとしては、なんとしてでも兵役を逃れようとする男の話は、悪くはないと思った。死を畏怖し「非国民!」となじられても、生きることを優先するのだ。南方の島々で散華した友人たちが、毎晩のように、枕元に立って、何か言いたげであっても。
兵役逃れの理由は「醤油のがぶ飲み」ではなく「階段から転落して足に複雑骨折を負った」ところまで設定して、休憩した。
不意にテレビをつけると、ロシアの兵役動員を30万人増やすという。その現実に敏感に反応したロシア国民が都市部で、大規模な反戦デモを起こし、警察に連行されているのが以下の写真である。
そして、偶然にも兵役を逃れるために「腕を折る方法」がネットに溢れた。
ぼくは「足の複雑骨折」を考えていたが、現実に「腕を折る方法」があるのだとすれば、ぼくの、作品の方向性を修正する必要あった。
この夜のデモだけで、1400人の国民が警察に検挙された。
デモに加わったというだけで、兵役命令書がその場で、発行された。
取材しているライターやカメラマンにも兵役命令が出された。
「腕を折る方法」やデモばかりではない。主に隣国のジョージア、カザフスタンへ脱出するロシア国民も20万人を超えている。
自称「住民投票」の結果、東部ルハンスク、ドネツク、南部ザポリージャ、ヘルソンの4つの州がロシアに併合された。
プーチンの頭上に爆弾の雨が降り注げばいいと思った。
プーチンのどてっ腹にハイマースから発射されたロケット弾がぶち込まれればいいと願った。
赤の広場で、併合の祝典が催された。多くの人々が集まった。
しかし、集まったのはエキストラがほとんどで、会社の命令だったり、参加すれば、大学で単位をもらえるとか、あと、アルバイトも数多く存在したらしい。
ところが、士気の高いウクライナ軍が、翌日に自称「住民投票」でロシアに併合されたドネツク、ヘルソンの要衝地帯を奪還している。
ロシアが、いくら一般国民を兵役に取って、前線に送り込んでも、ロシア側には戦う大義がない。どこまでいっても「侵略者」は「侵略者」でしかない。
NIDS防衛研究所・防衛政策研究室室長の高橋杉雄氏は、ロシアに起こっている一連の混乱と茶番劇は「これが、一気にロシアの終わりの始まりとは言わないが、決定的なロシアの「変化」の はじまりだ」と言明している。
この高橋氏の見解に、ぼくも賛同している。