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1945年4月7日、片道分の燃料の供給を受けた戦艦大和が、沖縄戦に出撃する。
しかし、坊ノ岬沖で米軍航空機約2000機の集中攻撃を受け、世界最大級の戦艦としての機能を発揮できないまま、あえなく撃沈する。
映画はこのようなシーンからはじまる。戦闘シーンは冒頭の5分だけ。
ただ、このシーンが凄い。ハリウッドの特撮技術さえ陳腐に思える山崎貴監督のSFX、VFXを駆使した大和撃沈に至る凄すぎる戦闘シーンである。
本当に度肝を抜かれる。
ところで、この映画は戦争映画ではない。反戦映画ともいえない。
映画紹介ポスター等に印字されてあるように「数学で戦争を止めようとした男の物語」である。
冒頭の戦闘シーンがあって、時代は1933年に遡る。昭和8年である。
国際連盟を脱退し、孤立化を深める日本。
このままでは、米国との戦争を避けられない、軍の上層部は認識している。
そこで、海軍省で持ち上がったのが、新型艦船の建造計画。
山本五十六少将(のちに大将)は、これからは、航空戦の時代で戦艦は無用の長物になる。よって、必要なのは、戦艦ではなく航空母艦だと持論を展開するが、会議に於いて、戦艦絶対論者たちと対立していた。
そんなとき、対立側の超巨大戦艦の見積もり額が、あまりに低すぎることに、山本五十六は疑念を抱く。
山本五十六は100年にひとりと言われる若き天才数学者・櫂直(かい・ただし)の協力を得て、見積もり額が低すぎるからくりを探ろうと画策するが・・・・・。
(以下、ネタバレあり!)
感じたことは、平和を望むがゆえ「戦艦大和」の建造に手を貸してしまう櫂直の複雑な心境が胸に突き刺さる。
「最後のひとりまで戦う」という当時の日本人の民族性を、大日本帝国海軍のシンボルである超巨大戦艦大和が撃沈することで、日本の敗戦を認めさせるという苦渋の決断で、彼の愛する数学を、悪魔に売り渡す心境は、本当に胸が痛む。
そして、山本五十六は、米国との戦争を望まずの立場を取りながら、裏では真珠湾攻撃を企画・立案していて、ああ、やっぱり、職業軍人の怖さだなあと、少し震えてしまったこと。
映画の見所としては主演の櫂直演ずる菅田将暉が、めっちゃ光る演技を魅せてくれる。
正確な数字の詳細が分からないまま、戦艦長門を巻き尺で、実寸測定し、設計図を描き、国家機密になっている戦艦絶対論者側の見積もりを、数式に変えて、実際の造船金額を暴き出すくだりは、迫り来る造船決定会議との時間との闘いで、鬼気迫るものがある。
そして、長門をベースにして、完成した設計図が、戦艦大和そのものの図面であったことに、感動すら憶える。
ポップコーンを頬張る暇も与えないテンポと緊張感のある話の展開で、絶品と言っても過言ではない。最大級のお薦めの映画である。