この秋、東京・上野の森美術館で好評を博している「怖い絵展」(10月7日~12月17日)の超目玉作品『レディ・ジェーン・グレイの処刑』である。この絵の、どこが、あるいは何がそんなにも怖いのか?一見すると美しくも映る。絵の横に少々長めの解説というか、エピソードが「怖い絵」シリーズの中野京子氏の解説がついていて、なるほどと腕を組んでしまう。策略によって16歳の若き女王が処刑されようとしている。手探りで自らの首を落とされる断首台の位置を確認している。その下には、血を吸い込むための藁の山が敷かれている。右側に断首する斧を持つ処刑人。失敗した時のために、腰にナイフをぶらさげている。この絵の怖さは、女王が、わずか16歳で、どうして、自分がこんな目に遭うのか、おそらく理解できていないところにあると思う。
ぼくは、夏の兵庫会場でお先に鑑賞しているが、女王の在位期間が、わずかに9日間だったことも、強く印象に残っている。
その他、記憶に残る作品を2,3記しておく。むろん、個人的にだ。
『チャールズ1世の幸福だった日々』
この晴れやかな日の、家族そろっての舟の旅。平和すぎる人々の表情。
しかし翌日、革命が起こる。
のちにチャールズ1世は囚われの身となり、公開処刑される。
革命の「か」の字も見せない、のどかな風景が、より未知への恐怖感をそそる。
『オデュッセウスに杯を差し出すキルケー』
女性がキルケーで背後の男がオデュッセウス。実は、この美しい女性キルケーはお酒を飲ませることによって男を獣に変えてしまう魔女なのだ。
「美」と「恐怖」は表裏一体ということか。
『クリオと子供たち』
子供たちは、まるで映画「サウンド・オブ・ミュージック」を彷彿させる。しかし、その子供たちの視線の先には、自害している母親らしき人物が。
不条理極まりない絵だが、作者は最初、女神クリオが子供たちに、本を読み聞かせている風景を描いていた。しかし、時は第一次世界大戦中で、創作の最中に作者は実際に戦争で、子供を失ってしまう。
絶望感が原因で、このような不自然な絵が出来上がってしまったということだ。
展示されてある多くの絵を見て、何も怖くないというひともいるかもしれない。
たしかに、視覚的には、むしろ美しい絵のほうが多い。
しかし、その歴史的背景やシチュエーションを知ることによって、はじめて「怖さ」が発生するのかもしれない。
ぼくは、使わなかったけれど、女優の吉田羊さんのナビを使うと、よりその絵の深さが判る。
近郊の方も遠方の方にも、超おすすめの展示会。芸術の秋ですぞ。