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             北の空
       

  バッテリーが上がり
  車を降りて ふたり
  公衆電話を求めて
  凍てつく道を歩いた

  祝福も花束もない
  行き当たりばったりの
  車での新婚旅行中の
  アクシデント

  北の空は 重い鉛色で
  体の震えは限界で
  でも 君は呟いた
  あたし 幸せだからと

 

3月に入った途端、近畿地方春一番が吹いた。春一番と呼ぶには、いささか荒っぽい暴風雨って感じだったけれど。雷なんかも鳴っていたし。

昨日かおとといも、列島は局地的な春の嵐が吹き荒れたようだ。

来週になると20℃を超える日が続くらしい。しかし、まだ、寒暖の差が激しくて体調が完璧とはいかない。

そんなある日、ローカルな通信社ではあるが信頼のおけるプレスから、取材の申し出があった。エリアは限られるが、ぼくに関する記事を発信してくれるらしい。

平たくいうと、こんな身近なところに30年以上も詩を書いているひとがいますよ・・・

ってことを周知してくれる。

主治医からは許可が出ている。取材は2時間に及んだ。

「普通の言葉と、詩の違いは何ですか?」と訊いてくる。

「かなしいことをかなしいとは、だれでも書けますよね。しいていえば、かなしいことをかなしいといわないでかなしさを伝えることではないでしょうか」とぼくは、えらく

最もらしいことをいってしまった。

ぼくだって作品に、ストレートに「かなしい」ことを「かなしい」と書くことは何度もある。

取材が終わって、写真を何枚も撮られた。詩集を持たされて「もっと、笑ってください」とリクエストされた。告白するが、ぼくは、「笑い顔」が最も苦手なのだ。

自分の笑い顔など見たくもないのだ。ぼくほど、笑顔が似合わない人間もめずらしいかもしれない。

なんとか、ぎこちない笑顔を作ってOKが出た。

その翌日には、産経新聞朝の詩に拙作が掲載された。

昭和を書いた。かなり、ぎゅうぎゅうに言葉を詰め込んだ。

公衆電話を書いた。

でなければ、話が成立しない。

公衆電話なんて、見たこともないというひともいるだろう。

それはそれでいい。

どうせ、最先端のスマホだって、おそかれはやかれ、過去の産物になる。

古めかしいセンスのない代物になる。

時代が、すべてを淘汰していく。